所北野球部の素晴らしいところは、先輩がやさしく、イジメやシゴキがなかったところです。
ただ、35年も前のことです。間違った常識がまだ蔓延っていた時代で、練習中、水を飲んではいけなかったのですが、わたしはよく水を入れた水筒をライト側の木陰に隠していました。たまにカルピスを入れていました。
ある日、女子マネージャーに、カルピスウォーターのメリットについてプレゼンしました。「カルピスを飲みたいから、みんなガンバるぞ」と。
そのおかげで、3年春の埼玉県大会はベスト8に入りました。公立高校がベスト8に入るには、血の滲むような努力が必要で、チームメンバーたちはみな、「自分たちの努力が実を結んだ」と言って喜んでいましたが、わたしはこっそりと「いや、違う。カルピスのおかげだ」と思っていました。
しかし、最後の夏の大会の初戦では、なんと、ヤカンには、カルピスウォーターではなく、ただの水が入っていたのです
「この試合、どんなに頑張っても勝てるはずがない。なぜなら、カルピスじゃないからだ」
わたしは負けを覚悟しました。案の定、試合に敗れました。私たちを破った浦和市立高校も公立高校で、県大会ベスト8どころか、その後、甲子園に出場し、準決勝まで進みました。わたしは毎試合、テレビに映し出される浦和市立高校のベンチに注目していました。
「ああ、あのヤカンの中にはきっとカルピスウォーターが…」
そんな楽しい高校生活でしたが、規律の厳しい野球部にいたおかげで、我慢強さを身につけることができました。世界中、どこへ行っても、相手に合わせることができるので、中国でもほかの国でも「いやあ、笈川さん、すごいですね」と言われますが、野球部時代のあの長くキツい練習中、仲間たちと笑い合いながら過ごしたことで、どこの国の人たちとも大笑いしながら過ごすことができるのだと思います。