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学生の心に火をつける(その4)

前回お話できなかった超級クラスの小手先テクニックについてお話したいと思います。
お若いのにできるビジネスマンがサラリと使う前置き、クッション言葉を思い浮かべてみてください。
恐れ入りますが
お忙しい中恐縮ですが
お手数をおかけいたしますが
ご足労をおかけいたしますが
前置き、クッション言葉を使って口撃開始の体制を整えることに、ワクワク感をおぼえる学生が、北京大学にも清華大学にもいました。それがうまくハマったので、わたしも前置き、クッション言葉を重要視しすぎるわ、常にエビデンスを求めて相手を追い詰めるわで、中身のない偽物が徐々にさまになっていきました。
ここは反省の場ではないので、話を戻します。前置き、クッション言葉をさらに進化させ、新聞記事や文章を読んだ感想について話す時の『型』を作りましたので、ここでひとつご紹介します。
「この記事の中から印象に残ったところについてお話します。みなさん、プリント2ページ3行目をご覧ください。以下のセンテンスを読み上げます。……みなさん、いかがでしょうか。ここがわたしのポイントです。では、なぜこのような事件が起きてしまったのでしょうか。理由はふたつ考えられます。わたしは以下のように分析しました。どうぞ聞いてください」
ここまではセリフです。そのあとは、自由に意見が言えます。ただ、それまで、どんな記事を読んでも「すごい」「怖い」しか言えなかった教え子たちが、周りから賢く見られるであろうこれらの言い回しを見た瞬間に使い倒すようになりました。
もうひとつ、本物とは言いがたい小手先テクニックをご紹介します。それは、古典を読み、印象に残ったところをノートにまとめ、エピソードトークにするテクニックです。
ちょっとなに言ってるのかわからない、と思われたかもしれませんが、たとえば、私たちが『方丈記』を語るとき、「鎌倉時代に書かれた随筆で、『枕草子』『徒然草』と並び、日本三大随筆のひとつ!」という、受験生の知識はあるのですが、ほとんどの人は、ちゃんと読んでいないか、昔読んだことはあるけど、あまり覚えていないかのどちらかだと思います。しかし、「あまり覚えていませんが、養和の大飢饉のくだりはすさまじいと思いました」と、短い言葉で感想を話せば、「こいつ、やるな」と思われます。
「あまり詳しくありませんが」という前置きと、「養和の大飢饉」というマニアックな知識のギャップで、相手を動揺させるのです。そして、この道理がわかったら、誰かが「謙虚っぽく見える前置き+マニアックな知識」でマウントを取ってきた時に、自分は動揺せずに済みます。偽物でさえなかった自分が偽物に昇華すると、ほかの偽物に騙されずに済みます。
大事なのは、古典です。「先日、M1グランプリの敗者復活ネタで、シシガシラのツッコミ担当がボケ担当の頭部を眺めるだけで大爆笑をかっさらった」というマニアックなエピソードを話したとて、周りから「賢そう!」と思われることはありません。
以上、今回は、中国トップレベルの学生たちが取り組んでいた超級レベルの小手先テクニックを少しだけご紹介しました。前回の話の続きとしてお話するなら、これも、暖炉に小枝を放り込む作業と同じで、燃え盛る炎はたいへん鮮やかで、人の目を引くかもしれません。
次回は学生のハートに火をつける編の最終回で、いよいよ太い薪の話をします。
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