大森杯日本語作文スピーチ世界大会について
ちょうど20年前。30代半ば。北京大学で教鞭を執っていた時に、大森先生と初めてお会いしました。当時は、年長の方々から厳しいご指摘をいただくことが多かったです。毎晩夜遅くまで留学生宿舎のロビーでスピーチ特訓をしていましたが、「そんなことをしても無駄。意味がない」といった、否定的な言葉を受けることも少なくありませんでした。そのような中で、大森先生だけは、その取り組みに対して「いいことをされていますね」とお声がけくださり、初めて自分の親世代にあたる方から認めていただいた経験となりました。
そのときにいただいたポジティブフィードバックと励ましが、現在の教育活動の原点です。その後、大森先生に北京へお越しいただき、全国日本語スピーチ大会を開催していただきました。その大会を契機に、教え子たちが各種日本語スピーチコンテストや作文コンクールで成果を上げるようになり、活動が広がっていきました。
今回の世界大会は、大森先生のご活動を応援されてきた186名の有志の皆様が、『日本を愛し、日本語を学ぶ世界の人たち一人一人』が、日本にとって大切な〝民間大使〟で、そうした人たちのために、役に立ちたい!という思いから、資金提供していただき、開催実現に至りました。
また、現在、日本語スピーチ判定アプリやAIアバターアプリの開発にも取り組んでいます。判定アプリは、「話す力」を適切に測り、AIアバターアプリは、学習者の発話を最後まで笑顔で受け止める存在で、「安心して話せる環境」を提供することが目的です。これらの取り組みは、大森先生が体現されていた「最後まで話を聞き、励まし、自分の気持ちを自分の言葉で相手に届ける」教育を、後世に残したいという思いに基づいています。
現在、外国人受け入れに関する議論が活発ですが、日本人と円滑なコミュニケーションが可能になれば、相互理解は大きく進むと考えています。そのために、ポジティブフィードバックと励ましを軸とした教育を通じて、日本で学び、働く外国人の方々が、より良い形で社会と関わることができる環境づくりに貢献したいと考えています。
現在、発音・アクセント、文法の間違いを指摘・訂正しないで、最後まで、笑顔で、うなずきながら聞く授業をしています。文法などの説明をしないで、わたしが指示を出す時間、フィードバックをする時間は15秒以内と意識して、学習者が話す時間を長くする授業です。
学習者の問題点を指摘・訂正すると、間違いはなくなりますが、発話量も減ります。そして、正しく1秒で答えたり、正しい1単語で答えたり、全く答えなかったりする学習者が溢れ出します。
60秒間、自分の気持ちを自分の言葉で相手の心に届けられる学習者を増やしていきたいので、指摘・訂正したい気持ちを抑えて、我慢に我慢を重ねながら、指摘・訂正をしない授業を行っています。
スピーチ大会の全国大会で勝つため、大事な勝負に勝つためなら、細かい指導、厳しい指導は必要だと、経験上わかっていますし、そうしてきましたが、勝つための日本語力は、日本人とコミュニケーションを取るときには、必要ないように思います。ですから、そこは分けて考えています。