先生たちのなやみを聞きました。「教科書を中心にした授業では、カリキュラムを進めることでいそがしく、学習者がどのくらい上手になっているかを、ゆっくり考える時間がありません」ということでした。私は、教科書の授業がわるいとも、カリキュラムがだめだとも思っていません。そこで、先生たちの一つ一つのなやみに、こたえたいと思います。
教科書には、「正しい文」が書いてあります。だから、学習者は、自分で考えるより、「これかな?」と正解をあてようとします。そこで、「正解は一つだけではありません」と言えばいいのです。文法が少しまちがっていても、「意味がわかった」「相手がうなずいた」ということを大切にしてください。そうすると、学習者はまた考えて、話すようになります。
② 相手に通じた経験が少ない
教科書のれんしゅうでは、「相手に伝わった」「よろこんでもらえた」という気持ちを感じにくいです。ですから、「相手に通じたか」を大切にしてください。クラスメイトのえがお、うなずき、反応を見て、「できた!」と考えてください。そうすると、ことばが生きてきます。
③ 気持ちをこめて話すことが少ない
教科書の文は、ふつうすぎて、気持ちをこめて話すことが少ないです。同じ文でも、
・楽しそうに言う
・こまっているように言う
・つよい気持ちで言う
このように話してもいいよと言ってください。気持ちが動くと、ことばは「覚えるもの」から「使うもの」に変わります。
④ 学習者の人生や背景が見えにくい
教科書では、ちがう人生の人が、同じ文を言うことが多いです。ですから、「あなたの場合はどうですか?」と聞いてください。教科書を「形」として使い、中身は一人一人にまかせてください。そうすると、教科書の文が、自分のことばになります。
⑤ 話す=文法をまもることだと思ってしまう
文法をまちがえると、「しっぱいだ」と思いやすいです。でも、最初に大切なのは文法ではなくて、「伝えようとしたこと」です。文法は、あとで直せばいいと伝えてください。まずは、「声を出した」「相手を見た」「意味を伝えた」ことを「せいこう」にしてください。
⑥ しっぱいをこわがる学習者が生まれやすい
上手な日本語ばかり見ていると、人は、まちがった日本語を話したくなくなります。だから、クラスメイトのまだ完ぺきではない日本語を、いちばん大切なものとしてあつかってください。とちゅうで止まってもかまいません。たんごだけでもいいです。「話してみたこと」を、はくしゅでむかえてください。そうすると、日本語がこわくなくなります。
⑦ 教室の外につながりにくい
教科書の日本語は、すぐに生活で使えるとはかぎりません。「この日本語を、今日どこで使えそうですか?」と聞いてみてください。教室のことばを、生活につなげるだけで、勉強の意味が出てきます。
⑧ 自分で話す時間が少ない
読む、聞く、答えるだけで、話す時間が少ないです。一文だけでもいいので、「自分のことば」を話す時間を作ってください。短くても、何回も話すことで、話す力は少しずつのびます。
⑨ 先生の評価が中心になりやすい
先生は、評価する人ではなく、「場を作る人」になってください。学習者どうしが反応し合う場を作ると、ことばは自然に相手に向かいます。
⑩ 日本語が「べんきょう」だけになってしまう
テストや進み方だけのものになりやすいです。日本語を、「生きるための道具」「人とつながるためのことば」にもどしてください。うまく言えなくても、話したことで、関係が生まれます。それが、日本語の大切な価値です。
まとめ
先生たちへの答えですが、教科書をすてることではありません。教科書を使いながら、人を中心にした授業にすることです。誰かに通じた経験をふやし、教室を明るい場所にしていきましょう。