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中国の大学教師向け日本語教師研修

林修先生のような先生は、学生からのどんな質問に対しても、有り余る知識を使って立板に水の如く説得力抜群の話術で学生たちを魅了し、崇め奉られますが、カリスマ講師の講義を真面目に聞いても、東大候補生しか東大に入れません。私は小学生のときから、授業中、先生の話を黙って聞いていたので、予備校に通ったときはなんの違和感もありませんでした。それまで小中高と受けてきた授業スタイル、そのレールの延長上に、小中高の先生より何倍も面白く、キラキラ輝く予備校講師がいて、「もしかしたら自分を救ってくれるのでは?」といった淡い期待を抱いたものです。
幼い頃に読んだ『三国志』『項羽と劉邦』に、国王の定義が示されていました。そこには「国民に十分食料を与えること。あるいは十分な食料を与える希望を国民に持たせること」と書かれてありました。つまり、難関大学に合格させられなくても、話術で学生たちに希望を与えることができたら、それで十分なのかもしれません。
清華大学での面接時に、主任、副主任から「うちの学生は、上手に話すことができないので、学生たちの話し相手になってください」と言われました。中国のトップエリートでしたが、講義スタイルで日本語を学んでいたので、学生たちは日本語を上手に話せず、自信喪失から引っ込み思案になっていました。そんな彼らとの会話中、彼らのひとことを聞いて「すごいね」と褒めると、目をキラキラさせ、さらにひとことふたこと話してくれました。もちろん、文法上問題がなかったわけではありません。しかし、そこを指摘したら、引っ込み思案を加速させてしまうと思って指摘するのをやめました。誤りをスルーして、良かったところを3つ見つけ、みんなの前で、発言した学生を褒めるのではなく、その学生の良かった部分をみんなに説明するだけなら誰も傷つきません。清華大学で、ゲームや試合のような授業スタイルで、学生たちの日本語を高めることができました。北京大学での面接では、主任からこう言われました。「うちの学生は日本語に興味がありません。そこは気にせず、優秀な学生だけを厳しく指導してください」と。誤りをスルーして、良かったところを見つけ、称賛するやり方を、学生たちにもやってもらいました。褒め言葉のバリエーションが豊富だと雰囲気がよくなり、相手に喜んでもらえて、学生たちはどこへ行っても好感度が高かったです。
ちょうどいま、中国の大学教師向けに日本語教師研修をしています。研修生の皆さんは、ご自分の日本語力が高まるのを感じるそうで、研修が終わった瞬間、WeChatメッセージが飛び込んできて、「この授業スタイルに効果を感じます!」といってくれますが、同時に、これまで受けてきた授業スタイル、これまでやってきた授業スタイルと違い、自分が尊敬している恩師も講義スタイルの授業をしていたので、もし今の授業スタイルを変えたら、自分の恩師を批判することになるのでは?と心配されていました。
一応どんな先生が尊敬されているかを聞いてみました。回答は様々でしたが、まとめると、とても怖く、大声でダメ出しをしまくり、ノートでもEメールでも、長文でダメ出しをするので、その先生の言うこと、やることが、「絶対だ!」と言うところが共通点のようです。ですので、講義中、その先生の話の意図が分からなくても、質問するのは失礼にあたるような気がして、ただうなずくだけだと言うことでした。それが理由か、今回の研修生の多くは自己肯定感が低いように感じました。自分を卑下し、他人を褒めることができない先生が「私も学生を褒めて伸ばしたいですが、どう褒めて良いかわかりません。やったことがありません」とおっしゃっていました。
そうそう、こんなニュースを見ました。鹿児島県清水小学校に通う61人の児童が、4.2キロの遠泳に挑戦し、全員完泳したそうです。偉大な先生の講座を聞いただけでは、子どもたちは完泳できないと思います。
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