ポジティブ・フィードバックが生み出す教室の奇跡
学校の休み時間や放課後、子どもたちはまるで空気を吐くように、何気なくこんな言葉を吐き出しているそうです。「ばか」「あほ」「使えない」「いらない」「意味わかんない」「デブ」「チビ」「キモい」「ダサい」「うざい」――。見た目を笑ったり、性格をけなしたり、できないことを笑ったり。「こっち来んな」「お前のせいだ」「消えろ」と、相手を排除するような言葉もあります。そして、「お前には無理」「どうせできない」「邪魔」「そんなことも知らないの?」と、人を見下す言葉が日常に溶け込んでいます。
無数にあるネガティブワードを「禁止だ!」と叫んでも、きっとやめられません。「そんなことを言ったら人を傷つけて、全国大会にも甲子園にも出られなくなるぞ!」と脅して、解決できる問題でもありません。
では、どうすればいいのか…。
30年前、ハラスメント全盛期に、息苦しさを感じて海外へ飛び出しました。そこで見つけた答えが「ポジティブ・フィードバック」でした。教師も学生も、互いを励まし合う言葉を使うだけで、教室の空気が一変しました。放課後、クラスメイトの関係、先輩後輩の関係も良くなりました。誰かがマウントを取ろうとしたら、まわりが「すごいね!」「よくできたね!」と褒めてしまうので、その“マウント”もすぐに静まります。ネガティブな言葉を口にする人がいたら、まわりが「大丈夫」「気にしないで」「あなたのいいところがたくさんあるよ」と声をかけるので、「仲間はずれにするな!」と言わなくても、自然と仲間はずれがなくなりました。
ところが最近、学校関係者にこの話をした瞬間、「でも今は、学校に来たくない子を無理に来させることはしないんですよ」と言われてしまいました。それを聞いた瞬間、その子が“来たくない”理由を、もっと感じてください!と思ってしまいました。
もしその子が「うざい」「デブ」「キモい」と言われる代わりに、「漢字がよく書けるね」「折り紙が上手だね」「やさしいね」と言われていたら、心が壊れることはなかったかもしれません。
人が話す時間には、たいてい尺があります。その“限られた尺”をポジティブワードで埋めて欲しいです。3人の仲間が、たった1分間自分を褒め続けてくれたら、何日間も曇っていた心が一気に晴れていきます。
「ネガティブワード禁止!」と貼り紙をするよりも、「人が言われて嬉しい言葉」を、みんなで20回音読してもらいたいです。びっくりするほどの変化が見られるはずです。「一緒にいてくれて嬉しい」「いつもかっこいいね」「今日もおしゃれだね」…。そうした言葉を毎日声に出していたら、休み時間も放課後も、明るい言葉であふれます。
優れた教育改革のため、皆、本当に頑張っていると思います。でも、最初の一歩はとてもシンプルだと思うんです。まずはポジティブワードを20回音読。そして、誰かが発表するとき、聞き手は、眉を上げ、目を見開き、笑顔でうなずきながら聞く。それだけで、話し手の声は大きくなって、自信に満ちていきます。優れた教育改革は、そこで初めて花が開くと思います。
皆、「先生のポジティブ・フィードバックは奇跡ですね」とおっしゃいますが、奇跡ではなく、誰にでもできる簡単な習慣です。この、小さな習慣が、子どもたちの未来を変えてくれるはずです。