スピーチ指導
清華に移ってから、スピーチ指導を始めました。とはいっても、実際は、日本語でたくさん質問し、学生がそれに答える──そんな対話の時間でした。
「歩きながら学ぶ」ところが特徴的でした。清華大学から北京外国語大学まで往復約2時間。その道のりを、学生と語り合いながら歩くのが、スピーチ訓練のやり方でした。
コンテスト用に質疑応答練習も行いましたが、教え子たちの勉強法を教えてもらうことの方が多かったです。代表に選ばれる学生は皆、日本語が上手で、努力の達人だったので、「どうやって清華大学に入ったのか」を知りたかったのです。
ある日、発音が驚くほど美しい学生とこんなやりとりをしました。
「どうすれば、そんなにきれいな発音になるの?」
「日本語は、笑顔のまま口を動かさずに話すだけだから、中国語より簡単ですよ」
翌日の授業でこの話を紹介すると、半分の学生が、突然、驚くほどきれいな発音で話し始めました。「良い方法」を知ることが、こんなに力になるとは思いませんでした。
暗記も同じです。暗記はスポーツと似ていて、まず準備運動が必要です。ある学生は、「私は天才です。日本語は簡単です。絶対大丈夫です」と3回唱えてから教科書を開きました。
そのあと、20個の単語を、日本語と中国語を交互に読むだけでした。一周終わると、彼女は「覚えないでください」と言いました。しかし、脳は否定形を理解できず、逆に「覚えよう」とするそうです。
七周ほど繰り返す頃には、単語が自然に浮かんでくるようになります。ここまでが「準備運動」です。
そして本番は──歩きながら暗記する。座って覚えようとするよりも、立ち上がり、足を動かしながら声を出す方が、脳が活発になります。足の裏への刺激が、記憶力を引き出してくれるからです。
この「歩きながら暗記する」スタイルを、アクティブリコール(能動的想起法)と間隔反復で行っていました。
20年以上前の清華の学生たちは、すでにこの学習法を自然に身につけていました。きっと孫子の兵法をすらすら言えた昔の人も、アクティブリコールと間隔反復をやっていたのでしょうね。
さて、成績の良い学生は、いつも自分専用のメモ帳を持ち歩いていました。私との会話の途中でも、わからない表現が出ると、すぐに開いて確認していました。はたから見れば不思議に思えるかもしれませんが、これこそが「伸びる人の習慣」なのだと思いました。
勉強法は人それぞれですが、アクティブリコールと間隔反復──この2つだけは、すべての優秀な学生に共通していました。
学生時代にこの方法を知っていればどんなに良かっただろうと思います。机に向かっても覚えられず、外に出て気分転換をしてばかりいたあの頃。「自分には勉強のセンスがない」と思い込んでいましたが、ただ、良い方法を知らなかっただけです。
清華の学生たちと出会って、もう一度学ぶ勇気をもらいました。彼らの方法を真似て、中国語の故事成語を歩きながら暗唱したら、不思議なほど頭に入ってきました。
(来週に続く)
↓12月名古屋で開催される中国語スピーチ大会宣伝ポスターです↓