「参加費は無料。滅多にないチャンスだから」という声もあれば、「太陽のように眩しすぎて、自分には釣り合わない」という声もあります。
後者の見方はよく理解できます。昔、お笑いライブに出ていた時に、キラキラ輝く他の芸人を見て、同じことを思ったものです。
ただ、子ども笑顔ミュージカルを勧めてくださったママ友が、「子どもたちみんなで作り上げるんですよ」とおっしゃるので、「じゃあ、やってみようか!」ということになりました。
稽古初日、ワタナベリカさんというお姉さんが、子どもたちを引っ張っていました。楽しそうに。
お姉さんがひとことしゃべれば笑いが起きて、子どもたちの目が釘付けとなり、体を動かさずにはいられない!という興奮状態となって、休憩時には全員汗びっしょりでした。
「宝の山だ!」と思いました。
お姉さんの指示は細かくイメージしやすかったです。例えば、「止まれ!」と言っても、子どもたちは少し揺れてしまうのですが、「ピタッと止まれ!」と言うと、全員がピタッと止まるのです。子どもたちは、嬉しそうな顔でお姉さんの指示に従っていました。
お姉さんは、子どもたちに自分をナメさせるようなこともします。リカ先生ではなく、「リカちゃん」と呼ばせて、友だちとして、楽しい稽古が進んでいきました。
稽古初日の夜、私はセミナーが入っていて、稽古の最後を見ることができませんでした。2日目も稽古を見に行くことができなかったのですが、子どもたちが家に戻るなり、動画を見ながら踊っていたので、なんとなく、楽しかったのだろうと思って、安心しました。
3日目の午前、その日は、小学校の学習発表会でした。娘は演劇、息子はダンス。表情がいつもより生き生きしていました。体いっぱい、心いっぱいに何か熱いものが入っているような感じ。その後、ママ友が子どもたちを稽古会場に連れて行ってくれました。
そういうわけで、私は4日目の本番当日まで、子どもたちがどんな稽古をしてきたのか、よくわかっていませんでした。ママ友が、「今日はこうこうだったよ!」と教えてくれたので、ぼんやりとは見えていましたが、初日の午後の説明と少しの稽古。2日目は全日。3日目午後の稽古。これだけで何ができるのかな?でも、みんなが「すごい」って言っているし、たぶん、すごいんだよね…。
本番当日午前はリハーサルでした。そこで登場したのが「どんちゃん」と呼ばれている俳優さんでした。ここでの特徴は、子どもたちが緊張していなかったところです。それでもセリフを忘れたり、うまく言えなかったりするのですが、どんちゃんが、「え?なに?今、何て言った?」と聞き返すので、子どもたちは、噛んでしまったセリフを言い直すと、そこでまた笑いが起こります。つまり、どっちに転んでも子どもたちのセリフ回しは成功するわけです。その手法は、リカちゃんも使っていました。舞台の上でそうしていたように、稽古でも同じようにしていたのだと思います。どっちに転んでも成功するから、誰も緊張しないのでしょう。
当日は、ゲストがいらっしゃいました。と言っても、どんちゃんやリカちゃんと仲良さそうなゲストでした。その方は「たにぞうさん」と言って、『おかあさんといっしょ』の振り付けや楽曲を提供する方でした。
ブンバ・ボーンといえば、思い出す方もいらっしゃるかもしれません。
たにぞうさんも本番前のリハーサルを盛り上げていました。舞台には、ダンス担当のお姉さんもキラキラ輝くほかの俳優さんもいて、プロの俳優さんのそばで楽しそうに演技をしている子どもたちがいる。とっても不思議な世界でした。
そういうわけで、厳しい稽古とは正反対の空間で、子どもたちは伸び伸びと演技して、舞台が終わると泣いていました。自分の限界を超えた時の感動を、こんな小さな子どもたちが、もう経験済みなのか…と思うと、感慨深いものがありました。
という、素晴らしい経験について話しましたが、
「才能のある子どもたちだけが集まるんでしょう?」
「いえ、引きこもりの子が参加して、それをきっかけに明るくなって…」
「でも、うちの子は無理。厳しい稽古についていけないから」
「いえ、厳しい稽古じゃありませんよ」
「でも、うちの子は頭が悪いから、セリフが覚えられないし…」
「いえ、セリフをとちっても大丈夫」
「でも、うちの子はやっぱりだめ。やる気がないから」
「いえ、みんなやる気が出るんですよ」
「でも、でも、でも、」
ほとんどの人がやる前にあきらめるといいますが、人生は努力で決まるわけじゃなく、出会いで決まるのですから、ほどよい感じで、出会いを邪魔しない親になりたいと思いました。